高年齢雇用継続給付金をもらうと年金はいくら減額?損しない判断ガイド
給付金・手当60歳以降も働き続ける方の心強い味方となるのが、高年齢雇用継続給付金です。しかし「申請すると年金が減る」という話を聞き、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。実は、働きながら年金を受け取っている場合、この給付金を受給することで年金の一部が支給停止される仕組みがあります。
この記事では、2025年4月からの制度改正を踏まえ、年金がいくら減るのか、どのようなケースなら申請すべきかを具体的に解説します。損をしないための判断基準を、図解と比較表でわかりやすく整理しました。
高年齢雇用継続給付金をもらうと年金は減る?併給調整の仕組みを解説
働きながら年金を受け取る際、雇用保険から給付金をもらうと年金額が調整される仕組みがあります。これは「併給調整」と呼ばれ、多くの受給者が直面する問題です。まずは、誰が対象になり、どの程度の影響があるのかという基本を整理しましょう。
年金と給付金を同時にもらうと起こる「二重の調整」とは
働きながら給付金をもらうと、年金が二重にカットされる可能性があります。なぜなら、賃金額に応じて年金が減る「在職老齢年金」の仕組みに加えて、給付金を受けることによる追加の支給停止が発生するためです。
具体的には、在職による年金カットが行われたあとの金額から、さらに一定額が差し引かれる仕組みになっています。この構造を正しく理解していないと、給付金をもらっても手取りが増えないように感じてしまうため、注意が必要です。
対象になるのは「特別支給の老齢厚生年金」を受け取りながら働く人
併給調整の対象となるのは、主に60代前半で年金を受け取りながら厚生年金に加入して働く方です。「特別支給の老齢厚生年金」を受給している方が給付金を申請すると、年金額の調整が行われます。
したがって、年金の受給権がまだない方や、すでに65歳以上で老齢厚生年金を受給している方は、この給付金による年金カットの対象にはなりません。ご自身がどの年金を受け取っているかは、まず年金請求書やねんきん定期便で確認するのが第一歩です。
「年金がなくなる」のではなく一部が停止されるだけと理解する
給付金を申請しても、年金が全額なくなってしまうわけではないので安心してください。停止されるのは、あくまで老齢厚生年金の一部であり、老齢基礎年金は影響を受けず全額支給されます。
実際の調整額は日本年金機構が自動で計算し、給付金の受給状況にもとづいて決定される仕組みです。「損をするから申請しない」とすぐに判断するのではなく、カット額を差し引いてもトータルの手取りが増えるかどうかを見極めることが大切です。
参考:日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/koyou-chosei/20140421-02.html
年金が減る仕組みを解説:停止されるのは給付額の最大4割相当
具体的な減額幅を知ることは、今後の生活設計を考えるうえで非常に重要です。年金の停止額は、受け取る給付金の全額ではなく、一定の割合にもとづいて決まります。仕組みを理解すれば、過度な不安を解消できるはずです。
支給停止額の計算方法:賃金の下がり幅で停止率が決まる仕組み
年金の停止額は、現在の賃金(標準報酬月額)に対してどれくらいの給付金が支給されているかによって決まります。賃金の低下率が大きく、給付金の支給率が高いほど、年金の支給停止率も高くなる連動の仕組みです。全体像は以下の表のとおりです。
| 賃金低下率(60歳到達時と比較) | 給付金の支給率(上限) | 年金の停止率(上限) |
|---|---|---|
| 64%以下 | 10% | 4% |
| 64%超75%未満 | 10%未満(逓減) | 4%未満(逓減) |
| 75%以上 | 支給なし | 停止なし |
【2025年4月改正】停止率が「最大6%」から「最大4%」に変更
2025年4月1日以降に60歳を迎える方から、年金の支給停止ルールが変更されました。これまで標準報酬月額の最大6%が停止されていましたが、改正後は最大4%へと引き下げられています。
この背景には、給付金自体の支給率が15%から10%に縮小される制度改正があります。2025年3月31日以前に60歳に達した方は、引き続き従来どおり支給率15%・停止率6%が適用されるため、ご自身がどちらの基準に該当するか確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00043.html
モデルケースで見る減額シミュレーション
実際にいくら手元に残るのか、具体的な数字で確認してみましょう。2025年4月以降に60歳に達した方で、賃金が30万円から18万円(低下率60%)に下がった場合、収支は次のようになります。
- 給付金の支給額:18,000円(賃金の10%)
- 年金の支給停止額:7,200円(賃金の4%)
- 実質的な増加額:10,800円
このように、給付額の約4割が年金から差し引かれますが、差し引きの手取りは確実にプラスになる仕組みです。
【賃金水準別】給付金の申請で得する人・見送るべき人比較表
給付金をもらって必ずしも全員が大きな恩恵を受けるわけではありません。賃金の低下率や将来の年金受給戦略によっては、あえて申請しないという選択肢も生まれます。ここでは、ケース別の損得を比較していきましょう。
賃金が60歳時点の64%以下まで下がった人は申請メリットが大きい
再雇用などで賃金が大幅に下がる方は、迷わず申請すべきです。なぜなら、支給率が上限の10%となり、年金カット分を差し引いても十分な手取り増が見込まれるからです。
年間の受給総額が数十万円単位になるケースも多く、生活の安定に大きく寄与します。大幅な減収があった場合は、公的な補填制度として最大限活用するのが賢明な判断といえるでしょう。
賃金の低下が75%前後にとどまる人は手続きの手間が見合わないことも
一方で、給料があまり下がっていない方は、申請のメリットが薄くなります。低下率が75%に近い場合、支給率は1%程度にまで下がり、実質的な手取り増が月額数千円程度にとどまるためです。
この給付金は2か月に1度の継続的な申請が必要なため、会社と連携して行う手続きの手間を考えると、あえて見送るという判断もあり得ます。
将来「繰り下げ受給」で増額を狙う人は申請前に要注意
将来の年金額を最大化したいと考えている方は、併給調整が足かせになる可能性があります。給付金によって年金が支給停止されている部分は、将来の繰り下げ受給による増額の対象から外れてしまうためです。
繰り下げによる月0.7%の増額メリットを優先したい場合は、あえて給付金を受け取らない方が長期的に得をするケースもあります。目先のお金を取るか将来の年金増額を取るか、ご自身のライフプランに合わせた選択が求められます。
賃金水準別給付金額と年金停止額の早見比較表
2025年4月以降に60歳に到達する方を前提に、60歳時賃金30万円のケースで目安をまとめました。
| 現在の賃金 | 低下率 | 給付金目安(月額) | 年金停止額目安(月額) | 実質手取り増 |
|---|---|---|---|---|
| 18万円 | 60.0% | 18,000円 | 7,200円 | 10,800円 |
| 20万円 | 66.7% | 14,400円 | 5,760円 | 8,640円 |
| 22万円 | 73.3% | 3,500円 | 1,400円 | 2,100円 |
※実際の金額は、賃金月額の上限・下限額など、その時点の制度に応じて変動します。
在職継続か退職か:給付金と失業保険、どちらが有利かシミュレーション
定年後にそのまま働き続けるか、一度退職して失業保険(基本手当)を受け取るかは大きな分岐点です。それぞれで受給総額や手取りがどう変わるのか、比較していきましょう。
働き続けて給付金を受け取った場合の手取り試算
在職を継続する場合、安定した給与に給付金が上乗せされるのが最大のメリットです。給与・給付金・調整後の年金をあわせることで、65歳までの期間にわたって一定の収入を確保できます。
ただし、賃金があらかじめ定められた支給限度額を超えると給付金は支給されなくなるため、高所得の方ほど恩恵は少なくなる点には注意が必要です。長く安定した収入を確保したい方にとっては、在職継続と給付金の組み合わせが基本戦略になります。
退職して失業保険(基本手当)を受け取った場合の手取り試算
一度退職して失業保険を受ける場合は、受給期間中は特別支給の老齢厚生年金が全額支給停止される点に注意が必要です。ハローワークで求職の申込みを行うと、その翌月から失業給付の受給期間が終わるまでの間、年金は原則として全額支給されません。
失業保険は前職の賃金をベースに算出されるため、短期的には給付額が大きくなることもあります。しかし、年金が全額止まってしまう影響を考えると、トータルの手取りでは在職継続に劣るケースも少なくありません。
給付金と失業保険は同時に受け取れない点にも注意
高年齢雇用継続給付金と失業保険(基本手当)は、同時に受け取ることができません。在職中に受け取る高年齢雇用継続基本給付金は、失業保険を受給していないことが支給の条件だからです。
働きながら給付金を受け取り、途中で退職して失業保険に切り替えることは可能ですが、両方を同時にもらうことはできません。ご自身のキャリアの出口戦略に合わせて、どちらを選ぶか検討する必要があります。
年齢・給与水準別に見る有利不利の分かれ目
一般的には、賃金の下落幅が大きく安定した収入源を確保したい方は在職継続、退職理由が会社都合に近く早期の再就職を目指せる方は失業保険の活用が有利になりやすい傾向があります。
ただし、年金への影響や給付日数には個人差が大きいため、一概にどちらが得とは言い切れません。ご自身の賃金水準や退職までの見込み年数、老後資金の状況を踏まえて総合的に判断することが重要です。
申請前に知っておきたい制度の今後と手続きの注意点
給付金と年金の関係を理解したところで、今後の制度改正の見通しと、実際に申請する際の注意点も押さえておきましょう。
2026年4月「65万円の壁」で年金カットの基準が緩和される
在職老齢年金で年金が一部停止され始める基準額は、これまで月51万円(令和7年度)でしたが、令和7年の年金制度改正法により、2026年4月からは月65万円へと大幅に引き上げられます。
これにより、賃金と年金の合計が65万円以下であれば在職による年金カットは発生しなくなり、高年齢雇用継続給付金による追加の調整(最大4%)だけを考慮すればよいケースが増えます。
制度は段階的な縮小・廃止が決まっている今後の備えも必要
高年齢雇用継続給付金は、すでに段階的に縮小したうえで将来的に廃止する方針が固まっています。2025年4月の支給率引き下げはその第一段階であり、具体的な完全廃止の時期は今後の政府方針次第ですが、いずれ制度自体がなくなる可能性を前提に考えておく必要があります。
給付金という国からの上乗せに頼りきるのではなく、iDeCoや新NISAといった私的年金の活用など、自分自身で老後資金を準備する視点も持っておくと安心です。
申請は会社経由、月の途中で退職した月は支給対象外になる点に注意
高年齢雇用継続給付金の申請手続きは、本人ではなく原則として事業主(会社)を通じて行います。初回申請では賃金証明書などの準備が必要なため、会社の担当者との連携が欠かせません。
また、この給付金は月単位で支給の可否が判定されるため、月の途中で退職した月については原則として支給対象外となります。退職を検討している場合は、有給消化のタイミングとあわせて、月末退職にするかどうかも事前に確認しておきましょう。
まとめ:高年齢雇用継続給付金と年金の関係を正しく理解し、損しない選択を
高年齢雇用継続給付金を申請すると年金が一部停止されますが、最大でも賃金の4%程度にとどまり、給付金そのものの支給額を下回ることはないため、トータルの手取りは必ず増える仕組みになっています。
大切なのは、ご自身の賃金低下率や将来の繰り下げ受給の予定、退職か在職継続かの選択肢を照らし合わせ、個別に損得を判断することです。退職時の社会保険や給付金の受給額を最大化するための判断は、個人の状況によって大きく異なります。専門家と一緒に個別にシミュレーションしたい方は、まずは無料相談をご利用ください。
この記事の監修者
今井 一貴
経営と現場の双方に寄り添った支援を行っています。制度を整えるだけでなく、実際に現場で無理なく運用できるかまで見据えた提案を大切にしています。
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