ハラスメントの法律上の定義とは?3つの要素をわかりやすく解説
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「毎日職場に行くのが辛い」「上司のあの態度は法的に許されるの?」と、職場の人間関係や言動に悩んでいませんか。
自分が受けている扱いが、単なる「厳しい指導」なのか、それとも法律で禁止されている「ハラスメント」なのかを判断するのは非常に難しいものです。しかし、2020年から施行された「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」により、ハラスメントの定義は明確に定められ、企業にはそれを防ぐ義務が課せられています。
この記事では、現在悩みを抱えている従業員の方に向けて、ハラスメントの法律上の定義である「3つの要素」や具体的な事例、そして自分を守るために知っておくべき法的リスクについて、専門的な視点からわかりやすく解説します。
ハラスメントの法的定義とは?労働施策総合推進法の基本
職場でのハラスメント問題に対処するためには、まず法律が何を「ハラスメント」と呼んでいるのかを知る必要があります。法律の名称や、ハラスメントの種類ごとの違いを正しく理解することで、会社に対して適切な主張ができるようになります。
パワハラ防止法が定めるハラスメントの全体像
私たちが一般的に「パワハラ」と呼んでいるものは、法律上は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」の中に定められています。この法律が2020年(中小企業は2022年)に改正・施行されたことで、職場におけるパワーハラスメント防止が企業の義務となりました。
法律の目的は、働く人々が心身ともに健康に、その能力を十分に発揮できる環境を整えることです。つまり、ハラスメントは単なる「個人の性格の問題」ではなく、労働者の権利を侵害し、就業環境を悪化させる「法的問題」として位置づけられています。
パワハラ・セクハラ・マタハラの法律上の定義と違い
職場で起こりうるハラスメントにはいくつかの種類があり、それぞれ根拠となる法律が異なります。自分が受けている被害がどのカテゴリに属するかを知ることは、相談先や解決策を考える上で重要です。
| ハラスメントの種類 | 根拠となる法律 | 法律上の主な目的 |
| パワーハラスメント | 労働施策総合推進法 | 職場内での優越的な関係を背景とした、適正範囲を超える言動の防止 |
| セクシュアルハラスメント | 男女雇用機会均等法 | 性的な言動による就業環境の悪化、および不利益な取扱いの防止 |
| マタニティハラスメント | 男女雇用機会均等法・育児介護休業法 | 妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益な取扱いの禁止 |
これらのハラスメントに共通しているのは、「受けている側がどう感じているか」という主観的な視点と、「社会一般の常識に照らして許容されるか」という客観的な視点の両方から判断されるという点です。
【引用元】
あかるい職場応援団(厚生労働省)
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/definition/about
パワハラが成立する「3つの法的要件」を詳しく解説

もしあなたが「これってパワハラでは?」と感じているなら、その言動が以下の「3つの要素」をすべて満たしているかどうかを確認してみてください。法律上、パワハラと認定されるにはこれらすべてに該当する必要があります。
1.優越的な関係を背景とした言動
「優越的な関係」とは、単に上司と部下という役職の上下だけではありません。抵抗や拒絶をすることが難しい関係性であれば、これに該当します。
- 職務上の地位の差: 部長から課長へ、上司から部下へ。
- 専門知識や経験の差: 特定の業務に詳しい同僚や後輩が、その知識を盾にして、詳しい知識を持たない相手に対して高圧的に振る舞う場合。
- 集団による影響力: 職場のグループ全員で特定の個人を無視したり、集団で圧力をかけたりする場合。
「自分は部下だから我慢しなければならない」と思わされている状況自体が、この要件を満たす背景になり得ます。
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
ここが「厳しい指導」と「パワハラ」の分かれ目です。社会通念上、その仕事をする上で明らかに不必要、あるいは手段として不適切なものが該当します。
- 必要性がない: 業務とは関係のない、上司のプライベートな買い物を強制される、人格を否定される。
- 相当性がない: 多少のミスに対して、何時間も立たせたまま説教をする、他の社員の目の前で大声で怒鳴る。
仕事上のミスを注意されること自体は「業務上必要」な範囲内とされることが多いですが、その「やり方」が度を越している場合は、この要件に当てはまります。
3.労働者の就業環境が害されること
その言動によって、あなたが身体的、または精神的に苦痛を感じ、仕事に集中できなくなったり、体調を崩したりしている状態を指します。
この判断基準は、「平均的な労働者の感じ方」がベースになります。「普通の人が同じ状況に置かれたら、辛くて仕事が手につかなくなるだろう」と客観的に認められるかどうかがポイントです。あなたが「自分が弱いからいけないんだ」と自分を責める必要はありません。
【引用元】
厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
厚生労働省が示す「6つの類型」と具体的なOK・NG例

法律の要件だけではイメージしづらいという方のために、厚生労働省はパワハラの典型的な例を「6つの類型」として紹介しています。あなたの状況がどれかに当てはまっていないか、チェックしてみましょう。
身体的・精神的な攻撃から個の侵害まで「6つのパターン」
これらはパワハラの代表例であり、これらに当てはまる場合はハラスメントである可能性が非常に高いと言えます。
- 身体的な攻撃: 叩く、蹴る、胸ぐらをつかむ、物を投げつけるなどの暴行。
- 精神的な攻撃: 「死ね」「給料泥棒」「バカ」といった暴言、人格を否定するような言葉。
- 人間関係からの切り離し: 1人だけ別の部屋に隔離される、挨拶をしても無視される、業務に必要な情報をわざと伝えない。
- 過大な要求: 新入社員に対して到底終わらない量の仕事を課す、私的な雑用を強要する。
- 過小な要求: 経験豊富な社員に対して、誰でもできるような簡単な作業(草むしりやコピー取りなど)だけを長期間続けさせる、仕事を与えない。
- 個の侵害: 休日の予定をしつこく聞き出す、私物やスマートフォンの中身をチェックする、性的指向や持病などの機微な個人情報を勝手に周囲に話す。
業務上の「指導」か「アウト」かを見分ける3つのチェックポイント
上司から「これは指導だ」と言われても、納得できないこともあるでしょう。以下の表で、指導の範囲内(OK)とパワハラ(NG)の境界線を確認してください。
| チェック項目 | 業務上の適正な指導(OK) | パワーハラスメント(NG) |
| 発言の内容 | ミスの内容と改善方法を具体的に指摘する | 「人間失格」「やる気がないなら辞めろ」と人格を否定する |
| 叱責の場所 | 1対1の面談や、適切な範囲での注意 | 朝礼の場や、多数の社員の前で見せしめのように怒鳴る |
| 時間の長さ | 必要な事項を伝え終えるまでの短時間 | 数時間にわたり、反省文を繰り返し書かせる、立たせ続ける |
重要なのは「その行為に業務上の正当な理由があるか」と「手段が適切か」です。理由があったとしても、人格を傷つけるような手段は法律上認められません。
【引用元】
厚生労働省「職場におけるハラスメント対策マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
法律違反による「損害賠償」と企業が負う3つのリスク
ハラスメントは単なる職場内のトラブルではなく、法的な責任を伴う問題です。もしあなたがハラスメントの被害を受けている場合、加害者や会社に対して責任を追及できる可能性があります。
民法上の不法行為責任と損害賠償が発生するケース
ハラスメント行為は、民法第709条の「不法行為」に該当することがあります。加害者である個人に対し、精神的苦痛に対する慰謝料や、通院が必要になった場合の治療費などを請求することが可能です。
また、会社に対しても「使用者責任(民法第715条)」を問える場合があります。これは、従業員が業務中に他人に損害を与えた場合、その雇い主である会社も連帯して責任を負うという仕組みです。
安全配慮義務違反として問われる会社側の法的責任
会社には、従業員が心身の安全を確保しつつ働けるように配慮する「安全配慮義務」があります。
あなたがハラスメントの相談をしたのに会社が適切に対応しなかった、あるいはハラスメントが横行している状況を放置していた場合、会社はこの義務を怠ったとして「債務不履行」に基づき損害賠償責任を負うことになります。
訴訟リスクを最小限に抑えるための初動対応
あなたが自身の身を守り、法的に有利な状況を作るためには、以下の3つのステップを意識してください。
- 証拠の記録: 言われた内容(日時、場所、具体的な言葉)、周囲にいた人、その時の自分の気持ちを詳細にメモする。ボイスレコーダーでの録音やメールの保存も有効です。
- 相談窓口の利用: 社内の相談窓口や、外部の労働局、弁護士などに相談しましょう。「相談したこと」自体も、会社がどう対応したかを測る重要な事実になります。
- 心身の健康を最優先: 無理をして働き続け、健康を損なっては元も子もありません。医師の診断を受けることも、被害を証明する重要な証拠となります。
企業は、ハラスメントが公沙汰になることで「ブラック企業」としてのレッテルを貼られ、社会的信用を失うことを非常に恐れます。あなたが正当な権利を知ることは、会社に適切な対応を促す力になります。
【引用元】
裁判所「裁判例情報(パワーハラスメント関連)」
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1
まとめ:ハラスメントの定義を正しく理解し健全な職場環境を
ハラスメントの悩みを抱えている時、多くの人は「自分が我慢すればいい」「自分が悪いのかもしれない」と考えがちです。しかし、法律はあなたの尊厳を守るために存在しています。
今回のポイントを振り返ります。
- ハラスメントは法律(労働施策総合推進法など)で禁止された行為である。
- パワハラ成立には「優越的な関係」「適正範囲の逸脱」「就業環境の悪化」の3要素が必要。
- 人格否定や無視、過大な要求などは、指導ではなく「ハラスメント」である可能性が高い。
- 会社には従業員を守る「安全配慮義務」があり、放置すれば法的責任を問われる。
自分が受けている言動がこれらの要件に当てはまると感じたら、一人で抱え込まずに専門の機関や窓口に相談してください。客観的な法律の知識を持つことが、あなたの現状を打破するための大きな一歩となります。
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