退職金計算の基本|税金はいくら?手取りを増やす控除の仕組み
仕事辞め方
長年勤め上げた会社を退職する際、多くの人が心待ちにするのが「退職金」です。しかし、会社から提示された「退職金支給額」が、そのまま全額手元に残るわけではありません。退職金も所得の一部とみなされ、所得税や住民税の課税対象となるからです。
「手取り額がいったい幾らになるのか分からない」「税金で大きく削られてしまうのではないか」といった不安を解消するためには、退職金特有の計算ルールを正しく理解することが不可欠です。退職金には、現役時代の給与とは比較にならないほど手厚い「税制上の優遇措置」が設けられています。
本記事では、退職金の税金計算の仕組みから、手取り額を左右する「退職所得控除」の具体的な算出方法、そして賢い受け取り方のポイントまで、一次情報に基づき分かりやすく解説します。老後の資金計画を確かなものにするために、まずは正しい「計算の基本」を身につけましょう。
退職金の計算を始める前に|「額面」と「手取り」の違いを整理
退職金について考える際、まず区別しなければならないのが「額面(総支給額)」と「手取り(受取額)」の違いです。会社の就業規則や退職金規定に記載されている金額はあくまで「額面」であり、そこから税金が差し引かれた残りが、実際に口座へ振り込まれる「手取り」となります。
退職金にかかる税金は、他の所得(給与や副業収入など)とは切り離して計算される「分離課税」という方式が採用されています。これは、退職金が「長年の功労に対する報い」であり「老後の生活を支える重要な資金」であるという性質を考慮し、税負担が重くなりすぎないように配慮されているためです。
1. 退職金から差し引かれる2種類の税金(所得税・住民税)
退職金から天引きされる税金は、主に「所得税(復興特別所得税を含む)」と「住民税」の2種類です。
所得税は、退職所得の金額に応じて5%から45%の累進課税が適用されます。さらに、2037年までは東日本大震災の復興財源として、所得税額の2.1%分が「復興特別所得税」として上乗せされます。
一方、住民税は一律で10%(市区町村民税6%・都道府県民税4%)と決まっています。これらの合計が額面から差し引かれることになります。
2. 税負担を大幅に軽減する「退職所得控除」の役割
退職金の税金計算において最も重要なのが「退職所得控除」です。これは、退職金の額面から「一定の金額を差し引いてから税金を計算して良い」というルールのことで、勤続年数が長いほどこの控除額は大きくなります。
例えば、長年勤務した人が受け取る退職金がこの控除額の範囲内であれば、所得税や住民税は一切かかりません。つまり、「額面=手取り」になるケースも珍しくないのです。この控除の仕組みを理解することが、手取り額を正確に把握するための第一歩となります。
【引用元】
国税庁(退職金を受け取ったとき)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
【実践】退職金の税金と手取りを算出する3ステップの計算式
退職金の税金がどのように決まるのか、具体的なプロセスを見ていきましょう。計算は複雑に見えますが、大きく分けて3つのステップで完了します。
この計算式を知っておけば、会社から提示された概算額をもとに、自分自身で正確な手取り額をシミュレーションできるようになります。
ステップ1:勤続年数から「退職所得控除額」を算出する
まずは、自分の勤続年数に応じて「いくらまで非課税になるか(控除額)」を算出します。計算式は以下の通りです。
| 勤続年数 | 退職所得控除額の計算式 |
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
※障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、上記で算出した金額に100万円が加算されます。
ステップ2:課税対象となる「退職所得金額」を半分にする
ステップ1で算出した控除額を、退職金の額面から差し引きます。そして、その残った金額をさらに「半分(1/2)」にします。これが、実際に税金がかかる対象となる「退職所得金額」です。
退職所得金額 = (退職金の額面 - 退職所得控除額) × 1/2
この「1/2にする」というルールこそが、退職金の税金が他の所得よりも圧倒的に安くなる最大の理由です。ただし、勤続年数が5年以下の役員などの場合は、この1/2計算が適用されないケースがあるため注意が必要です。
ステップ3:所得税と住民税を計算して額面から差し引く
最後に、ステップ2で出た「退職所得金額」に税率を掛け合わせます。
- 所得税: 退職所得金額に応じた税率を掛け、控除額を引きます。(さらにその額に102.1%を掛けて復興特別所得税を含めます)
- 住民税: 退職所得金額 × 10%
これら2つを足した金額が税金の合計です。
「退職金の額面 - 税金の合計 = 手取り額」となります。
勤続年数が鍵!退職所得控除を計算する「20年の壁」のルール

退職所得控除の計算において、最も大きな分岐点となるのが「勤続20年」というラインです。このラインを超えると、1年あたりの控除額が大幅にアップするため、長く勤めるほど税制上のメリットは飛躍的に高まります。
ここでは、その具体的な違いと、計算時に間違いやすい「勤続年数の数え方」について詳しく解説します。
勤続20年以下:1年につき40万円の控除
勤続年数が20年までの期間は、1年につき40万円が控除されます。例えば勤続15年の場合、控除額は「40万円 × 15年 = 600万円」となります。
もし退職金が500万円であれば、控除額の範囲内となるため、税金は1円もかかりません。
勤続20年超:1年につき70万円の控除
勤続年数が20年を超えると、超えた分の期間については1年あたりの控除額が「70万円」に跳ね上がります。
例えば勤続30年の場合、最初の20年分で800万円、残りの10年分で700万円(70万円×10年)となり、合計で1,500万円もの大きな控除を受けることができます。この「20年の壁」を知っておくことで、早期退職を検討する際などの判断基準の一つになります。
1年未満の端数は切り上げ?勤続年数カウントの注意点
勤続年数を計算する際、1年に満たない端数(月数)がある場合は、たとえ1ヶ月であっても「1年」として切り上げて計算します。
- 例:20年と1ヶ月勤務した場合 → 21年として計算
このルールにより、退職日を数日調整するだけで控除額が数十万円変わる可能性もあります。自分の正確な入社日と退職予定日を確認し、端数の扱いを間違えないようにしましょう。
【引用元】
国税庁(No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得))
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
退職金の受け取り方で変わる税金|一時金と年金どちらが有利?
最近では、退職金を一度に全額受け取る「一時金形式」だけでなく、分割で受け取る「年金形式」、あるいはその両方を組み合わせる「併用形式」を選択できる企業が増えています。
しかし、受け取り方によって適用される税金の種類が異なるため、慎重な選択が必要です。それぞれのメリットとデメリットを比較してみましょう。
一括で受け取る「一時金形式」は税制面での優遇が大きい
一時金として受け取る最大のメリットは、これまで解説してきた「退職所得控除」と「1/2課税」がフルに適用される点です。
多くの場合、一時金で受け取ったほうが、支払う税金の総額を低く抑えることができます。まとまった資金が手に入るため、住宅ローンの完済や大きな設備投資、資産運用の元手として活用したい場合に適しています。
分割で受け取る「年金形式」は雑所得となり社会保険料に影響
一方で、年金形式で受け取る場合は「公的年金等控除」の対象となり、区分としては「公的年金等に係る雑所得」として扱われます。
年金形式のメリットは、会社が未払い分を運用するため、受取総額が一時金よりも増える可能性がある点です。しかし、受け取るたびに所得税がかかるだけでなく、合計所得金額が増えることで「国民健康保険料」や「介護保険料」の負担が増したり、医療費の自己負担割合が上がったりするリスクがある点には注意が必要です。
【比較】手取りを最大化する「併用」という選択肢
最も賢い選択肢の一つが、一時金と年金の「併用」です。
例えば、退職所得控除の枠を使い切る分だけを「一時金」で受け取り、残りを「年金」として受け取ることで、税負担を最小限にしつつ、老後の安定したキャッシュフローを確保することができます。
どちらが有利かは、退職金の総額や他に受け取る年金額、老後の生活スタイルによって異なるため、事前のシミュレーションが欠かせません。
【引用元】
国税庁(公的年金等の課税関係)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm
退職金の計算後に確認すべき「必要な手続き」と「確定申告」

退職金の計算が終わった後、最後に忘れてはならないのが、税務上の手続きです。これを怠ると、本来払わなくてよいはずの税金を余分に支払うことになったり、後から手間のかかる手続きが必要になったりします。
スムーズに満額の手取りを受け取るために、以下の3点を確認しておきましょう。
「退職所得の受給に関する申告書」を出せば確定申告は不要
退職金を受け取る前に、勤務先へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出する必要があります。
この書類を提出することで、会社側が正しい退職所得控除を適用した上で、正確な税額を天引き(源泉徴収)してくれます。この場合、退職金に関する納税手続きは完了するため、原則として確定申告を行う必要はありません。
もし提出を忘れると、退職金の額面に対して一律20.42%もの高い所得税が天引きされてしまい、後から確定申告をして払いすぎた分を取り戻すという面倒な作業が発生します。
年の途中で退職した場合は確定申告で税金が戻る可能性がある
退職金そのものとは別に、その年の給与所得についても確認が必要です。
年の途中で退職し、その後年内に再就職しなかった場合、毎月の給与から天引きされていた所得税が「払いすぎ」の状態になっているケースがあります。この場合は確定申告を行うことで、給与から引かれた税金の還付を受けることができます。
再就職する場合の住民税の支払いタイミングに注意
住民税の取り扱いにも注意が必要です。住民税は「前年の所得」に対して翌年課税される後払い方式です。
通常は給与から天引きされていますが、退職するとその天引きが止まります。残りの期間分を退職金から一括で支払うのか、後日送られてくる納付書で自分で払うのか、転職先で引き続き天引きしてもらうのか、事前に検討しておきましょう。
【引用元】
国税庁(退職所得の受給に関する申告書)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_37.htm
まとめ:正しい退職金の計算で余裕のある老後資金計画を
退職金は、あなたの長年の努力が形になった大切な資産です。その実質的な価値である「手取り額」を正確に把握することは、安心できる老後生活の土台となります。
- 退職金には強力な「退職所得控除」がある
- 控除後の金額をさらに「半分」にしてから税金が計算される
- 勤続20年を超えると節税効果がさらに高まる
- 「一時金」と「年金」の組み合わせで手取りを最大化できる可能性がある
これらのポイントを理解し、一度ご自身の状況に当てはめて計算してみてください。数字が具体的に見えることで、退職後の生活設計はより現実的で前向きなものになるはずです。もし計算が複雑で不安な場合は、税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談するのも一つの手です。
正しい知識を持って、あなたのセカンドライフに向けた最善の準備を進めていきましょう。
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